イタリア櫻子視察 エミリア=ロマーニャ編

一面をピンクに染め上げる桜たちの季節も、東京では徐々に終盤を迎えております。

さて、当会ではイタリア櫻子たちの視察を3月下旬から4月頭にかけて実施いたしました。今回視察した場所は、エミリア=ロマーニャ州のボローニャ・パルマ、そしてトスカーナ州のシエナ・ルッカ・フィレンツエです。

イタリアでも日本とほぼ同じ時期、または少し早い時期に、当会の桜も満開を迎えました。すくすくと、イタリアの現地の方々に大切に育てられ、成長している櫻子たちを視察することが出来ました。

今回は、エミリア=ロマーニャ州の櫻子たちの様子をご紹介します。

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ボローニャ   Bologna 
・Giardini Margherita
・Parco dei Cedri

ボローニャの櫻子たちは、市民の憩いの場であるマルゲリータ庭園、チェードリ公園にて、非常に元気に成長しています。
比較的湿気があると言われているボローニャの土地があっているようで、2011年に土に植えられて8年、大きく成長しています。3月末日に訪れましたが、ちょうど満開といった季節でした。


Parco dei Cedriの道際で咲く櫻子

葉が赤茶色の山桜もあります。(当会の桜はすべて、実生桜です。)

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パルマ   Parma 
・I Girasoli Nido Scuola dell’Infanzia 周辺

パルマには、当会から以前100本の櫻子たちが、Girasoli幼稚園周辺地域に寄贈植樹されていましたが、気候などの影響によって枯れてしまった木々が多数生まれてしまっていました。ですが、今回改めて視察を行ったことで、28本もの櫻子たちが、元気に生育し続けている、または回復している事が分かりました。

桜の成長過程はボローニャに比較すると遅く、まだ花を付けられていない桜もありましたが、確実に大きく成長し始めており、今後、当会でもこまめにパルマの櫻子たちの様子を確認し、情報発信して参りたいと思います。

 

 

 

イタリアの櫻子たち Bolognaから

  5月になってもイタリアは、なかなか気温が上がりません。
例年なら、半袖を纏い始め、始まる夏に心躍る季節ですが、待ち行く人々はジャケット、スカーフに身を包み、未だ来ずの夏を待ちわびながら、肌寒さをしのいでいます。「今年の気候はなんだかおかしい」人々は、口を揃えてそう言っています。

 雹が降る程に寒かった土曜日と打って変わって、幸いにもボローニャを訪れた日曜日は快晴。櫻たちが植えられている公園までは、しばらく駅から歩かなくてはならないので、ほっと胸を撫で下ろしました。雨に打たれる中で櫻子たちに出会うより、やはり陽の光を浴びた櫻子たちに会いたいものです。広がった青い空は、暖かな紅色をした古都ボローニャを引き立てていました。

 

 Centroから螺旋状に張り巡らされている柱廊を歩きながら、目的地のマルゲリータ公園に向かいます。ボローニャの道は、どこまでも柱廊の道。その昔、各々の店は、少しでも自分の作業場を広げるために、この柱廊下まで仕事場を延長させていたそうです。建物ごとに微妙に異なる色、デザイン、マテリアルを持ったそれらの柱廊の下を歩き続けていると、まるで中世にタイムスリップしたかのような錯覚に捕わます。石畳の道に出来た柱の影を一つ、二つと数えながら、この道でモノ作りに励んだかつての職人たちに思いを馳せれば、あっという間に目的地まで歩いてしまうものです。

 

  櫻子たちが植えられている場所は、市民の憩いの場であるマルゲリータ公園とチェードリ公園。今回は、ボローニャ在住の折り紙作家の清水みのりさんに、Centro近くにあるマルゲリータ公園まで、駅から案内して頂きました。清水さんは、イタリア在住の日伊櫻の会の会員でらっしゃいます。
 到着したマルゲリータ公園は、成長した緑の葉に一面包まれ、休日を楽しむ家族や若者で賑わっています。公園に響いているのは、芝生の上ではしゃぐ子供たちの声や、様々な鳥の鳴き声、”チリンチリン”という自転車のベルや、ジェラートを片手になされるイタリア人のおしゃべりなど様々ですが、大変この公園は広いため、静かな緑の中での散歩を楽しむことができます。

 

 そんな公園の一角で、櫻子たちはすくすくと育っていました。
 芝生が一面に敷かれた開けた場所に、Comune di Bolognaが作ってくださった柵があり、その柵の中で櫻子たちは大切に育てら、大きく成長していました。櫻こそ終ってしまっていましたが、まだ小さな櫻子たちでも、立派にまっ赤なチェリーをかわいらしく実らせていました。櫻子の木の背後には、芝生の上に並べられた色とりどりのアスレチックで遊ぶボローニャの子供たちがのぞき、この子供たちの成長とともに、櫻たちも大きくなって、何十年後に日本の櫻のように大きな木になる姿を思い浮かべました。

 

 
マルゲリータ公園にて
Comune di Bologna による植樹の記念プレート

 

 今回、ボローニャを案内くださった清水みのりさんは、ボローニャ在住の折り紙作家さんでいらっしゃいます。清水さんが、創作活動を本格的に始めるきっかけになったのは、2011年の東日本大震災だったそうです。震災後、日本のためにイタリアから何か出来る事を、と考えられたとき、脈々と続く日本文化である”折り紙”を思い、本格的に創作活動を開始されたそうです。特に、作品では櫻をモチーフすることが多いということで、日本から櫻がボローニャに渡ったことを、大変喜んでくださりました。
 清水さんの作る櫻は、ひとつひとつの花びらも手で折られることから表現されます。それは大変繊細で、細かい作業の積重なりと言えます。清水さんのおばあさまが、折り紙作家さんでいらっしゃり、小さい頃に手を介しておばあさんから教わった折りが、今でも不思議と手に残っているのだとおっしゃっていました。震災という大きな破壊を経験しながらも、その破壊を越えて次代に続いて行くものがあり、時にそうした文化の繋がりは、日本という土地を離れた場所で展開し得るということを、教えて頂いたように思えました。
 ボローニャに櫻の木が植樹されたのも、2011年の2月、震災の一ヶ月前だったことを思い返しました。

 

 イタリアで生活を初めてまだ2ヶ月ちょっとと少ないですが、それでもこの国の生活を通して常々感じれることがあります。
 それは、自分という一人の人間が、永い永い人類の歴史のほんの瞬間しか生きていないということであり、同時に、その瞬間として文化を生き、文化を繋ぐことから、人類の永い歴史を生きることが出来るということです。イタリア人の生活を取り囲む、食、建築、芸術など、あらゆるものは現在そこにあると同時に、遠い過去の歴史と必ず繋がっています。文化や伝統を守り、繋ぐということが、日常を当たり前に暮らすということとイコールにあるのかもしれません。大きな破壊を経験した震災後の日本が、こうしたイタリアの価値観から学べることは少なくないように感じます。
 清水さんとお別れした後、マルゲリータ公園の先にあるSaint Michele in Bosco教会までのぼってみました。街を見守るかのように丘の上に静かに建つその教会からは、紅色のボローニャを一望することが出来ます。街中のどこかの教会から奏でられる鐘の音が、遠くに聞こえました。
 日伊という遠い距離を越えて、繋がり続ける日本の文化に寄りながら、櫻子たちが成長していくことに思いを馳せて、古都ボローニャを後にしました。

 

チェードリ公園の櫻たち(清水さんのお友達より写真を提供いただきました。)
赤い実をつけた櫻たち チェードリ公園にて(清水さんのお友達より写真を提供いただきました。)

 

清水みのりさん、ボローニャをご案内下さってありがとうございました。

 

沢辺